椰月美智子さんの同名小説を映画化した『明日の食卓』を観ました。
菅野美穂、高畑充希、尾野真千子という実力派女優が共演していること、「誰にでも起こりうる母子のドラマ」というフレーズが間もなく出産を迎える私のアンテナに引っかかったことから、気になっていた作品です。
菅野美穂、高畑充希、尾野真千子が演じるのは、「石橋ユウ」という同姓同名の息子を持つ、住む場所も家庭環境も異なる3人の母親。
それぞれが幸せだったある日
一人のユウ君が母親に殺された
家族の形は違えど、それぞれ子どもを愛している母親たち。ほんのちょっとしたボタンの掛け違いで歯車が狂い始めて…
予告編の菅野美穂さんが朝の家事をばたばたとこなす映像は、共働きの家庭ならごくありふれた情景ですよね。ごく普通の母親たちが些細なことをきっかけにそれまでの生活を失ったり息子たちとの問題に直面したりしていく本作品は、脚本のうまさと女優陣の演技力も相まって、とても見応えがあり、これから子どもを迎える身として考えさせられることも多くありました。
あらすじ
住む場所も環境も異なる3人の母親には、小学5年生の「石橋ユウ」という名前の息子がいるという共通点があります。3組の母子は互いに直接的な関りを持つわけではなく、3つのストーリーが同時に進行していくという構成になっています。
神奈川在住・石橋留美子(菅野美穂)43歳
菅野美穂が演じるのは、2人の息子を育てるフリーライターの石橋留美子。
家事・育児を担いながら仕事に復帰し、以前から浮気をしているカメラマンの夫に期待するのはきちんと家計にお金を入れてくれ、良い父親でいてくれることのみ。ですが、その夫が仕事を失ってしまいます。
留美子はやんちゃな2人の子どもを育てながら、時には徹夜で必死に仕事をこなします。その様子は予告編にある通り。そんな妻を労わるでもなく家事をするでもない夫。留美子の苛立ちの矛先は子どもにも向かってしまい、特にお兄ちゃんであるユウ君にはきつく当たってしまいます。
あることをきっかけに夫婦関係は決定的に破綻してしまうのですが、それに対する「子どもなんか産まなきゃよかったじゃないか」というユウ君の言葉。胸に突き刺さります。
大阪在住・石橋加奈(高畑充希)30歳
高畑充希は、シングルマザーの石橋加奈を演じています。
女手一つで子どもを育てながら、ローンを返すために、アルバイトを掛け持ちする日々。余裕がない中でも、息子の成長を生きがいに、前向きさと明るさを失わず、懸命に生きています。
ですが、息子のユウ君は、そんな母親が時々、すごく疲れた顔をしているのを知っています。知っているからこそ、言えないことが増えていく…。
そんな中、加奈はお金にだらしない弟との問題も抱え、ユウ君は「自分なんていない方が良かったのではないか」と思うようになります。
静岡在住・石橋あすみ(尾野真千子)36歳
尾野真千子が演じる石橋あすみは、専業主婦。
立派なマイホーム、大学時代に出会って結婚し遠距離通勤を選んでくれた夫、優等生の息子と、絵に描いたような幸せな家庭のはずでした。
しかし、優しく成績も良い息子にいじめ問題が発覚します。当然ながら、息子の潔白を信じるあすみに対し、ユウ君は平然と「ゲーム」だったと言ってのけます。「お父さんがお母さんにしているみたいに、人を操る」ゲームだったと。そんな思わず「サイコパス」とつぶやいてしまうような裏の顔を持つユウ君を中心に、幸せだったはずの家庭が崩壊していきます。
そして、息子の殺害
そんな三種三様のストーリーが展開してき、「一人のユウ君が母親に殺された」というキーワードにつながっていきます。
一人のユウ君とは誰なのか。ユウ君を殺したのはどの母親なのか。
かなり衝撃的な展開でしたので、この部分はぜひネタバレなしで見ていただきたいです!
『明日の食卓』を見た感想
これから子どもを迎えるからこそ見ておきたいなと思った作品ですが、このタイミングだからこそなおさら胸がえぐられるような思いになる部分も多い作品でした。
世の中には、この作品と同じような結末に至った悲惨なニュースがあふれています。それぞれ事情もそこに至る経緯も当然異なるはずです。だけど、それは決して他人事ではない。あの母親は自分かもしれない。ユウ君は自分の子どもかもしれない。そんなふうにリアルに感じさせられる作品です。
3人のどの母親の愛も決して偽りではない。だけど、その愛ゆえにうまくいかなくなることもあるし、その愛がそのままの形で子どもに伝わるとも限らない。子育てって本当に難しいですね。
母親業を前にして心穏やかになるような内容ではありませんでしたが、子どもを育てることの重責と難しさを改めて認識するという意味で今見ておいてよかったと思いますし、ひたすらに暗くなるような終わり方ではなく、最後には希望も感じられます。
それにしても、男性陣が揃いも揃って酷い人たちなのも印象的でした。でもこれも決して珍しい話ではないんだろうと思ってしまうのも、悲しいかな現実です。ぜひ子どもを持つお母さんだけでなく、お父さんたちにも観ていただきたいです。
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